諸行無常」カテゴリーアーカイブ

諸行無常

地球という星の片隅に 偶然生えた緑色の苔のようなものだと 最近思う。 些細な偶然の連鎖が描く 細く短い糸のような軌跡の上を 辿って歩く私には 夏が見えている。 そして八月の粒は残り少なくなっており、 私はまたひとつ見えな … 続きを読む

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動機

私はもっと、退屈した方がよかった。 「本が無いと退屈で死にそうになる」と作家は言った。 それは絶望的な退屈なのだと言った。 なるほど退屈だから本を読むのか、と私は思った。 それはとても素敵なことだ。 退屈があるかぎり本が … 続きを読む

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会話

男というものは エレベーターの中で 人に声をかけないものらしい。 確かにわたしも 黙っている。 昨日の朝、エレベーターで 隣の森田さんの旦那さんと一緒になった。 朝からうるさく蝉が鳴いていた。 「暑いですね」 わたしは森 … 続きを読む

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葉月

私に八月が来た。 蝉は鳴き 雲は白く 空の果てに入道雲は盛り上がり 稲妻は心を射貫き 土砂降りの雨音は 様々な過去を 排水口に流し込む。 そのようなものを 「夏だ」と言ってみるけれど だからといって 踏み込むペダルの重さ … 続きを読む

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怪物

見えない人と 見える人がいる。 見える人は四角い硝子の向こう側に その可愛らしい怪物を見つけて そしてボールを投げる。 見えない人にとっては あるいは見ない人にとって それは不思議な光景である。 そのようにして 一夜にし … 続きを読む

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休暇

仕事を休むと、夏がわかる。 蝉は鳴いて異性を求めているし、 学生は自転車に乗って通り過ぎ、 日傘を差した婦人がバスを待っている。 私は季節もわからないような場所に 仕事に行っているのだろうか。 宇宙の果てのように遠い場所 … 続きを読む

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物理的なわたしの存在

わたしはいったい どこにいるのかということを 時々考える。 たぶん脳の片隅のいくつかの細胞が わたしがわたしだと思っているわたしである。 きっとそれは、わたしという認知を 支えているものであるが、 「からだ」というもの全 … 続きを読む

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ひとりのメソッド

ひとりで暮らしている。 毎朝、味噌汁を作る。 毎朝、洗濯をする。 気楽なんかじゃない。 自分の形が時々分からなくなる。 「ものさし」というものを わたしは持っていないから。 毎日一枚、古いジャズかポップスのレコードを聴く … 続きを読む

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キウイフルーツ

キウイフルーツの旬は冬だそうだ。 長い間夏だと思っていた。 ずいぶん昔のこと、 ある日母が近所でキウイの苗木を貰ってきて 家の前の畑に植えた。 キウイはぐんぐん伸びて、そして実を付けた。 「あぁなったなった」 母はそう言 … 続きを読む

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追憶

どんなに嬉しかったことも どんなに悔しかったことも どんなに悲しかったことも 僕はきっと忘れるだろう。 そうしてそれらはただ 天井の染みのようになっているだろう。 僕はただ黙って それをいつまでも眺めているだろう。 それ … 続きを読む

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