投稿者「ino」のアーカイブ

入梅2015

梅雨に入ったとみられる。 またしても予報士は長方形の窓の中で そのような微妙な言葉を発していた。 季節というのはいつだって 何となく始まるものなのだろう。 肌に触れる空気は重さを増していて、 ベランダに立つ私に絡みついて … 続きを読む

カテゴリー: 諸行無常 | 入梅2015 はコメントを受け付けていません

水無月

薄く開けた窓の隙間から 水無月なりの冷気が流れ込んで 部屋に展開していた。 薄いタオルケットだけで眠っていた私は 寒さで目が覚めた。 足を擦り合わせて暫く耐えていたけれど、 別に耐える必要などないのだと思い立って 起き上 … 続きを読む

カテゴリー: 諸行無常 | 水無月 はコメントを受け付けていません

グリンピース

空気はネクターのようにねっとりとしていて また雨の季節が近づいているのだと知る。 月は丸さを取り戻しつつあり、 薄い雲の向こう側から私を覗き込んでいる。 野菜の値段は高くなったり 安くなったりして、 それが天気に左右され … 続きを読む

カテゴリー: 諸行無常 | グリンピース はコメントを受け付けていません

空の星

オリオン座はいつの間にか 見えなくなっていた。 季節が進むと 見えなくなるものがあるということを 私は知ってはいるが、 それもまた実際不思議なことだと思う。 相変わらず夜のベランダは 風が吹いていて 少し冷たくなっており … 続きを読む

カテゴリー: 諸行無常 | 空の星 はコメントを受け付けていません

灯り

少しだけ明るい電球に変えてみた。 ただそれだけで、ずいぶんと世界は 違って見える。 目に見えるものの色というのは すべて電球が放つ光の中に含まれている。 ものはただ光に対する素性をあらわにするだけで、 「色」というものが … 続きを読む

カテゴリー: 諸行無常 | 灯り はコメントを受け付けていません

風音

木々が無ければ風の音はつまらない。 木の葉が奏でる風の音はざわざわとして それはまるで合唱のようだ。 ひとりで口笛を吹く孤独とは違う。 猫が見ているものは 現実に見ることができる風景ではなくて 脳の内側に影絵のように映っ … 続きを読む

カテゴリー: 諸行無常 | 風音 はコメントを受け付けていません

パスポート

どこか遠くにゆくためには 確かにここに居るという証が必要なのだ。 そのために私は 十年間で一万六千円の金を払って 赤くて四角い冊子を手に入れる。 どこへでも行けるということが、 すなわち宇宙的な自由ではなく、 限定される … 続きを読む

カテゴリー: 諸行無常 | パスポート はコメントを受け付けていません

Sounds good

しばらく前にオーディオアンプを新しくした。 以前のものは棄てた。 それは阿佐ヶ谷の駅前にあった電器屋で 確か三万円台の後半くらいの値段だった。 私は音楽に頼って生きている。 そういうことをふと思い出したのだ。 いつまでも … 続きを読む

カテゴリー: 諸行無常 | Sounds good はコメントを受け付けていません

風呂場の鏡は 世界を正しく映してはいなかった。 鱗状に水垢が付着して それは白濁していた。 そのようなことを憂えている人々は 電子の森の中には沢山いて ある者はクエン酸がよいと言った。 それで私は街でクエン酸の粉末を買っ … 続きを読む

カテゴリー: 諸行無常 | 鏡 はコメントを受け付けていません

具現

街で豆苗を買った。 エンドウ豆の若菜である。 パッケージには 切り取った後の根を水に浸しておくと もう一度生えてきます というようなことが書いてあった。 それでバットに入れておいたら 生えた。 緑色の葉がふたたび 同じよ … 続きを読む

カテゴリー: 諸行無常 | 具現 はコメントを受け付けていません