音楽薬

エレベーターで近所の奥さんが
「いつもinoさんのお部屋の前を通ると
 ピアノを弾いてらっしゃいますね。
 そういうお仕事をされているのですか?」
と言った。
「あ、い、いえ、あの、しゅ、趣味です」
と僕は答えてから、間違えたことに気付いたが
訂正するのも面倒なので、そのままにした。

実際のところ「趣味」というのが何なのか
僕はよく分からないのだった。
それは、あまり好きではない響きを含んでいる。
「趣味の園芸」というテレビ番組があるけれど
あれはなんだか妙なタイトルだと思っていた。
趣味の将棋とか、趣味の料理とか、趣味のピアノ
とか言わないし、なぜ園芸だけがどうどうと
趣味と言えるのかも分からない。
趣味という言葉からイメージされるものが
少しいやらしいことに思えるのだ。

音楽は薬だった。
僕にとって。
好きとか嫌いとかそういうものではなく
ましてや趣味でもなく
飲まなければならない薬のようなものだった。
いつも良い薬を探している。
よく効くやつを。

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