トテスリ

相変わらず八月は傾斜していて、虫の声。
猫は手持ちぶさたで、宙を見る。
週間天気予報の最高気温は毎日修正されて降下する。
黒い猫の目をじっと見る。
彼が塀によじ登れるのは、肩胛骨のおかげだっけ。
知識はテレビから入ってくるけれど、
それは揮発性のものだからいつのまにか消えている。
晴れた朝、粗大ゴミをだしたよ。
古いスピーカー、使わない大きなミキサー卓、
壊れたCDデッキ、それから本棚の欠片。
ものを、失ってゆく過程というのは
自分を失ってゆく過程でもある。
だから、夜が明ける前に、そっとゴミ集積場の前に
運んで、置き去りにする必要がある。
そのようにして処分するのは、自分そのものなのだ。

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