ブロッコリーというのは確か、食べ物だった。
しかし、それは花でもあった。
黒い帽子を被った若い男は、
花束のようにブロッコリーを抱えていた。
茹でてあるということは、よく見なくてもわかった。
彼は、左手にマヨネーズのチューブを持っていた。
夜更けの電車は空いていて、
彼は、隣に座る女性と話し込んでいた。
きっと、あれを食べ始めるだろう
そう僕は思って、ブロッコリーを注視していたけれど、
いつまで経っても、彼はそれを食べる気配がなかった。
結局、終点に着いて、彼らはそのまま電車を降り、
改札を抜けて、エスカレーターを降りて、街に消えた。
まるで普通のことのように。
何かのパフォーマンスにしては、あまりにも
テンションが低かったから、今や、そうやって
ブロッコリーを持ち歩くことが、当たり前に
なっているのではないだろうかと、思うくらいだった。
気にしない、というのは、必要なことだろうか。

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