瓶の中の未来

自分が好きだと思う漫画には
結構な割合で、梅酒を漬ける場面が出てくる。
理由というものがあるかどうか
分からないけれど、そういった
少し丹念に、未来への希望を
瓶に詰めるという作業を、
すてきなものとして、僕は受け止めて
いるのだということに気付いた。

そういえば、実家の裏山には
大きな梅の木があって、この季節になると
沢山の梅の実がなっていた。
祖母はそれを収穫して、干して梅干しを漬けたり
また梅酒を漬けたりしていた。
僕は、子供だったから、梅干しにも梅酒にも
興味がなくて、ただ、そういうものなのだと思っていた。
しかし、今から考えると
出来上がった梅干しや、梅酒よりも
収穫して、そしてそれを漬けるということが
必要なことだったのだ。

母は梅酒を漬けなかった。
理由は分からない。
祖母も母も同じ年に死んだから
どちらかが漬けていればよかったのかもしれない。
義姉は梅酒を漬けない。
理由を訊いたことはない。
この間、実家に帰った時、もう梅の木はなかった。
切り倒されて、何もなくなっていた。

僕は、今年、梅酒を漬けてみた。
スーパーで買ってきた梅で。
あく抜きして、ひとつずつヘタを取って、
磨くように拭いて、氷砂糖とともに瓶に入れた。
未来への希望をひとつ、作った。

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