東京の海

電車に乗って、海沿いの街に行った。
まるで夏のような、暑い日だった。
上着を着てこなくて良かったと思った。
それは行楽というわけではなく、
仕事関係の展示会を見るために行ったのだった。
まるで祭りのように、大勢の人が
ぞろぞろと建物の方に歩いていた。
僕はそれを見ただけで、今すぐ回れ右をして
帰りたくなったけれど、一応大人だから
程々の理性と、しがらみと、怠惰を持っていて
人の波に乗って、会場に向かうのだった。
階段の所で、後ろから誰かに肩を叩かれて、
振り向くと、以前働いていた会社で
上司だった男が立っていた。
「あぁどうもこんにちは、ご無沙汰しております」
僕はそう声をかけた。社会人的に合格点の挨拶。
しかし、僕はこの上司とあまり仲がいいわけではなかった。
そのことを思い出した。
彼はとっくに会社を辞めて、別の会社で働いているらしい。
共通の何人かの知り合いの話を適当にして、
入り口の前で別れた。
額に汗をかいたのは、陽気のせいかもしれない。
僕は汗を拭きながら、冷たい飲み物の
自動販売機を探した。

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