冷凍の夢

また電車の中で深く眠ってしまった。
最近、移動中に眠りの底に辿り着きそうなほど
眠ってしまうことが多くなった。
そうして、駅に着いて、無理矢理
体を起こして降りると、しばらくの間
どうしようもなく体調が悪い。
まるで、冷凍睡眠から解凍されるのを待つように
しばらく、どこかでじっとしていなければ
ならなかったりする。
でも、考えてみると、電車で通勤する距離
としては今までで一番遠いのだから、
そういう機会が無かっただけで、もともと
そういう体質だったのかもしれない。
それにしても、眠りというものと
うまく付き合うのは難しい。
睡眠時間を少なくする以外に
時間を捻出する方法があればいいのだけれど。

いつものように、カフェで書き物をしていると
向こう側のカウンター席に横並びに
若いカップルが座っていた。
二人は頬と頬の間が三センチくらいしかないくらい
べったり近づいて座っていて、
スーツ姿の男が、彼女の膝の上に手をのせたり、
肩を抱いたり、体のいたるところをべたべたと
触りながら何かを耳元で囁いている。
冷静に見ると、その男は、単にやらしく軽薄そうな
リーマンなわけだけれど、女の子は別に
嫌そうでもなく、ただにこにこと笑っている。
世の中というのは、たぶん、そういうふうに
できているのだろう。
しかし、それは僕のデリカシーの形とは
ずいぶんと違うものだ。
そういう違いを埋め合わせるには
いったいどうすればいいのだろう。
僕はまずい珈琲を飲み干して、その場所を離れた。

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