
桜の園でぼんやり桜を眺めていた。
日差しはすでに傾いていたけれど、
はらはらと散る花びらが映えて
美しいなと思った。
満開の桜よりも、こうして
散ってゆく桜の方が好きなのは何故だろう。
僕はポケットから、小さなウイスキーの
ボトルを出して、ひとくち飲んだ。
喉から体の中に落ちてゆくウイスキーが
優しい暖かさをつくった。
その時、背後で子供の声がした。
「なんだよ、散ってんじゃねーかよ!」
振り返ると、小学校四年生くらいの
男の子が二人と、女の子が二人
桜を見上げて立っていた。
「もう、この辺でやっちゃうぞ!」
髪の短くて、活発そうな男の子が言い、
リュックからレジャーシートを引っ張り出して
桜の木の下に広げた。
そうして、彼らはそのシートの上に上がり込むと
それぞれ、リュックからスナック菓子だの
水筒だの取り出して、それを食べたり
飲んだりしていた。
女の子は時々、何かを囁きあって笑い
男の子は小突きあってふざけていた。
最近の小学生は、ませてんな。
僕は遠くからそれを散ってゆく桜と
同じフレームの中に入れて眺めながら
ちびちびとウイスキーを飲んだ。
何だかとても
正しい春のような気がした。