空のくすり

瞼を閉じた時のラインで
細い月が空にあった。
涙は見えなかったから
たぶん、眠りにつこうと
しているのだろう。
オレンジ色はあっという間に
青に吸い込まれて
そして藍色から黒色の
夜というとてつもなさに葬られる。
それを恐れずにいられるのは
太陽は失われず
朝は再び来ると信じているからだろう。
人は吞気に出来ている。
水銀灯は星よりも強く僕を照らす。
きみは自分の中の本当のことを
探してみようとするのだろうが、
すぐに諦めて眠るだろう。
なぜならそんなものは
最初からありはしないからだ。
あるのはただひとつの
指向性であって
その微弱な力で何もかもを選択する。
選択した様々な欠片で
表されている繋がりの形こそが
現実なのだ。
心とか気持ちとか
そのような曖昧な物のことを
中心にすえようとすると
たちまち永遠が来る。
もちろん、それが間違っているわけではなくて
人はそういうふうに出来ている。
それもまた指向性のなせるわざだ。
だから、自分に対して嫌悪することはないのだ。
絶望することはないのだ。
そう思う。

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