しろいよるのこと

もつれた糸をほどくのは得意ではないし、
またそういうことが好きなわけでもないけれど、
仕事というのは、そういうことばかりでうんざりする。
得意なことを仕事にしたはずなのに、
いつの間にか、得意でないことばかりしている。
最近、何かそういうボタンの掛け違いのようなことに
細々と気付くことが多くてまいってしまう。
加齢というのは、そういう当たり前でつまらない
ことに気付いてぼんやりすることなのかもしれない。
そうして、日が暮れて、だいぶんまいった頃に
ふと顔を上げると窓の外に、白い雪が落ちるのが見えた。
それは綿毛のようにふわふわとしていて、まるで
スタジオセットの作り物のようだった。
もしも、雪が黒かったなら夜は見えないな。
それは反射率の問題だから、現在の光に対して
白色に認識できるだけのことなんだよな。
などと、またつまらないことを考えていたら、
同僚が代わる代わる窓の外を覗いて
「うわ、マジで降ってんじゃん」
「やっべー、積もってんじゃん、もう帰ろうぜ」
などと言っている。
そして、気付くと周りには誰もいなかった。
いつも気付くと、誰もいなくなっている。
窓の外を覗くと、相変わらずふわふわと雪が降っていて、
景色はずっと遠くまで白く塗り替えられていた。
屋根も木も、道路も白で覆い尽くされていた。
「うわ、俺も帰ろう」
僕は慌てて身支度をして、それから会社を出た。
雪はまだじゃんじゃん降っていて、何もかもを
閉じ込めようとしているような勢いだった。
雪を踏みしめる感覚がすごく久し振りで
何だか少し嬉しかった。

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