ここのところ固定電話の着信履歴に
図書館からの電話が何度も残されていて
それが尋常でない数だったので、これは
何だろう所謂ストーカーみたいなもの?と
不思議に思っていた。
ちゃんと留守番電話になっているのだから
メッセージくらい残してくれればいいのに。
そうしたら、昨日、今度はファックスが着信していた。
この部屋に越してから六年で、ファックスが稼働
しているのを見たのは二度目くらいだ。
一度目は間違いファックスで、測量会社の
調査報告がべろべろと大量に吐き出されていたのだが。
それで、ファックスには、警察署に図書館の貸し出しカード
が落とし物で届いているようですから、取りに行って下さい
と書いてあった。
警察署の落とし物係というのは、なぜか三時十五分までに
行かないと受け付けてくれないようだった。
仕方がないので、午後会社を休むことにして
お昼に会社を出た。
午後の光。
平日、冬の午後に街を歩くのは久しぶり。
冬の午後の細い日差しとぴんとはった空気。
なんだかそういう組み合わせが
ずっと昔に見たことのある映画のようで
とても好ましいものに思えた。
届いていたのは、貸し出しカードだけではなくて
ETCカードや、眼科の診察券なんかも一緒だった。
しかし、自分はこれらを無くしたことに
全く気付いていなかった。
なくした物に気付かないなんて
なんてひどいのだろう。
それは意識できないほど物を持ちすぎているのか
それとも、意識できないほど自分がぼんやりして
いるのか。たぶん後者だろう。
もしかしたら、そうやってなくした事すら
気付かないことが沢山あるのではないかと思うと
少し悲しくなった。
なぜならば、物というのは、選んだ時点で
自分を構成するひとつの要素だと思うから、
そうして、なくすことによって自分の形が少し
損なわれるような気がするのだ。
どこで拾われたのでしょうか、そう訊くと
LOFTのようですよ、と年配の係員は答えた。
そうだ、そういえば年末に買い物に行ったとき
財布の中から大量にカードの類を床にばらまいた
事があった。全て拾ったはずだったのだけれど
あのとき何枚か拾い損なったものがあったのだ。
忘れててごめん。
僕はそうカードに囁いて財布にしまった。