ひるまないための単純さを備えよ

午後、友達夫妻が夏に生まれたばかりの
小さな子供を連れて遊びに来てくれた。
めったに人が訪ねてくることのない
ひとりきりの部屋なので、同じ空間で
よっつの心臓が鼓動していることが
とてもうれしかった。

「これなに?」
と彼女はカウンターの上の器具を指さして言った。
「エスプレッソメーカー」
と、僕は答えた。
「エスプレッソが好きなの?」
彼女は僕を見て言った。
「いや、それほど好きじゃない」
僕は少し考えて答える。
「好きじゃないのに買うんだ。変なの」
彼女は笑って言った。
確かに、変だ。そのとおり。
たぶん、所有してみたかっただけだ。
所有してみたかっただけ、という心理はとても説明しづらい。
そればかりか、説明がどうしても言い訳がましくなる。
女性とそれから子供は、時々こういう質問をして
僕を射貫いてしまう。
男はなぜかこういう質問をしない。
それがとても面白い。
彼女たちはとても複雑に見えて
判断基準はとてもシンプルだ。
そういうところが、いいなと思う。
何かを創る時に必要なのは、対象物との間に
余分な説明が不要なことなのだ。

カテゴリー: 諸行無常 パーマリンク