冬の記憶

冬に至った日、ゆず湯に入ることができなかった。
だから今朝起き出してから、お湯をためて、ゆずを入れた。
柑橘系の香りは幼い頃から好き。
ずっと、みかんに恋い、してた。
暗くて冷たい倉庫に置かれた段ボール箱で
眠っているみかんのことを、こたつでテレビを見ながら
僕は時々考えて、しあわせな気持ちになった。

どの季節が一番好き?
時々、そういう話題になることがある。
そういう時僕はいつも、秋!晩秋!と答えることにしている。
しかし、本当にそうなのかどうか、よく分からない。
僕はただ、静かに密やかでいたいだけなのだ。
いつも、できれば冬眠したいと思っていて、
そうすると、必然的に秋から冬と答えることが
いちばんいいのではないか、と思える。
でも、本当はどの季節にも思い入れはない。
それは、ただ目の前を過ぎてゆくだけだ。
しかし、風向きが変わり、光が変わり、着るものが変わり、
食べるものが変わり、流れてくる音楽まで変わる。
変えなければならないのが、季節だろう。

最初の雪の記憶はたぶん二歳の時だ。
玄関を出たところに、白いものが三十センチほど積もっていた。
それが雪というもので、溶けると水になると分かるのは
暫く後のことで、その時は、ただ白いふわふわしたものが
午後の日差しを受けて輝いているのを、ただ不思議に見ただけだった。
寒いとか冷たいとか、そういう感覚はなかった。
それから、僕はその白い雪の上にオシッコをした。
湯気を上げて、黄色い一筋の線が、白い雪の上に引かれるのが
面白くて僕は笑った。
その時後ろに付いていた祖母が、笑ったかどうか
僕は覚えていない。

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