夜中にケーブルテレビでヴァイブレータという映画をやっていた。
確かこれは2003年の映画、映画館で観た。
玲は言う「自分の中のものを考える声がうるさいの」
そういえばこの頃、まだ狭いアパートに住んでいた。
窓の外の空もまた狭かった。
未来とか希望とかそういったものからはどこか遠かった。
旅をしたい、遠くに行きたい、知らない景色を見てみたいと思う。
けれど行かない、行くことはない。
不可抗力によって、どこか知らないところに
連れて行かれるのを待っている。
それはずるいことだろうか。
もしかしたらすでに、僕は遠いところに来てしまったのかもしれない。
毎日、知らない景色を見ているのかもしれない。
あるいは、何も見えないのかもしれない。
ある一時期、フレンチトーストに凝っていた。
凝っていたといっても、色々なバリエーションを試していたわけではなく、
ただ、毎日のように、卵と牛乳にパンを浸してから焼いていただけだ。
またある一時期、スパゲティに凝っていた。
毎日、毎日、にんにくとタマネギを刻んで、トマトソースを作って
ゆでたスパゲティに絡めて食べた。
そしてまたある一時期、菓子作りに凝っていた。
小麦粉をふるいにかけて、色々なケーキを焼いた。
でも、みんな飽きた。
みんな飽きて、めったにそれらを作らなくなった。
何に惹かれたのか、どうして飽きたのか、さっぱり思い出せない。
ただ風邪を引くように突然惹かれて、そして飽きた。
凝っている時が良いのか、それともそれは異常な状態で
あるいは病気で、醒めた状態が正常な人間たるものなのか、
そんなことも分からない。
しかし自分が、物事をふたつに分類しようとしていること自体に驚く。
どうしてそんなつまらない事を。
納得とはただ分類することなのではないか、そう思った。