村上春樹の「ノルウェイの森」という小説を読んだのは、1991年のことだった。
それは19年も前のことで、その後再読してないのだから、記憶もおぼろになり、
文章のディテールもはっきりとしていないが、言葉によってくり抜かれた物語の
空気感のようなものが、僕の中にずっと残っていた。それはひとつの好ましい痛み
のようなもので、自分にとって、とても大切なものに思えた。
昨日、映画館で「ノルウェイの森」を観た。
小説から得られたものが、映像化する時の異なる解釈によって破壊されることを
恐れていなかったわけではないが、異なる解釈を否定する必要はなかった。
なぜなら、それはどちらも解釈のひとつであり、自分のそれとは違うことが
当然だからだ。それに、むしろ異なる解釈のもののに近づくことによって、
自分の中の解釈を明確に、そして強固にできる可能性があるからだ。
しかしそれは、そんな理屈で武装しなければならないということでもあった。
実際に映画を観てみると、そんなことは全くの杞憂であった。
静かな映像は、言葉で満たされていた。つまり解釈する余地が十分に残されていたのだ。
考えを巡らせて自分の形に加工することが出来るように、小説的な距離を取って描かれていた。
だから、心配することはない、観ればいい、観て良かった、そう思った。
それから、菊地凛子の声が良かった。それが直子そのものかどうか、それは分からないけれど、
僕は直子の声を聞いてみたかった。それがあまりに自分の理想に近くて、びっくりした。
まぁそういうわけで、今風でもスタイリッシュでも、大恋愛映画でも何でもない
まるで単館上映のしかもレイトショー系のこの映画が、えらい規模で上映されている
ことが不思議というか、うれしくもあった。出来ればもう一度観たい。
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