いつものように、相対性理論のCDがタイマーでかかり、
携帯電話のアラームが三回分鳴っても、目が開かなかった。
瞼は光を遮るためにあるのだと思った。
それで、家を出る時間がとっくに過ぎてから、
パソコンに火を入れ、体調不良のため午前を休むという
メールを打ち込んで、送信ボタンを押した。
白ヤギさんでも黒ヤギさんでもなく、会社宛にメールは旅立って
それで僕はもう一度ベッドに戻る。
これって、嘘じゃないよね、こういうのを体調不良と
言わなくて何て言うのか、などと誰にするでもない
不必要な言い訳を考えている自分が馬鹿みたいだった。
それで、何とかお昼近くに家を出て、会社に行く。
わたしのようなものが、今のような会社に雇ってもらっているのは
とてもありがたいことであり、それは感謝以外のなにものでもない。
と、常々思っている、つもりなのだけれど、
この会社に行きたくなさは何事なのだろう。
そう流れてゆく青い景色を見ながら僕は思う。
去年の夏あたりから少しおかしい。
胃カメラ、ポリープ切除、骨折、帯状疱疹、妙な肩こり、倦怠感。
坂道というよりは、塀の上から飛び降りたような感じ。
この間、テレビを見ていたら、LOH症候群というものの症状
を説明していて、なんだかそれにとっても近かった。
男性ホルモンの減少による問題の数々。
しかし、自分の問題はどこにあるのか、なんとなく分かっている。
なんて、そんな話はどうでもよくて、
小径を通りかかると、銀杏の木がそびえ立っている。
黄色い葉を沢山つけたまま、光を受けて燃えるように
圧倒的に存在していた。
風が吹けば、はらはらと葉が舞うのだ。
太陽が散っている。
晩秋とはそういうものなのだ。
僕は、銀杏並木を呆然と眺めていた。