迷迷迷い道

バスは信号を左折して、
会社の前の通りに出るはずだったが、
そのまま直進した。
道を間違えたのだ。
見慣れない風景が流れてゆく。
運転手はすぐに気付いた。
「あはは、間違えちゃいました。はは」
マイクを通して、運転手は言った。
そこ、笑うところじゃないでしょ。
僕は思って、バックミラーに映る
運転手の顔を見たけれど、
運転手は黒縁の眼鏡に
大きなマスク、それに帽子で、
個性というものが消失していた。
このような
ありえない間違いというものに
僕は度々遭遇する。
そういうふうに出来ているのだろうか。
道を間違えるバスに
乗り込んだのは、今年二度目だ。
もちろん、道を間違えたのはバスではなく
運転手なのだけれど。
運転手は、バスを少し走らせて
バス会社の構内で、回転し、もとの道に戻った。
今日こそ、ちゃんと間に合うように
家を出た僕の時間は、迷い道に流れた。
またしても会社に着くと遅い時間だった。
ついてない人生を送っているのは
僕の責任です。
たぶん。

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