映画

はじめて映画館で観た映画は、確かスターウォーズだった。
中学に入りたての頃だったと思う。
しかし、僕は、映画を観に行ったことを、親に言わなかった。
いつもと変わらない日だったと、嘘をついた。
田舎町で、映画を観にゆくには随分と遠くまで、
汽車に乗ってゆかなければならない。
いくつもの風景を、乗り越えてゆかなければならなかった。
だから、その頃の僕にとっては、結構大きなイベントだった。
父親は、何もかもを禁止するような人だったから、
許可を請うような、無駄なことはしなかったし、
もちろん報告などしなかったのだ。
その時から、映画というものは、僕にとって、かなり
秘めたものとなった。
だから、東京に出て来て、自由に何かできるようになっても、
映画を観るときはいつもひとりで観たし、誰かと一緒に観たい
と思うことはなかった。
「映画」という言葉を聞くと、いまでもどこか、密やかな気持ちになる。

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