彼女は不機嫌そうに見えた。
電車の向かいの席に座って、
眉間に皺を寄せ、右斜め上を睨んでいた。
右斜め上には何があるのかというと
特に睨みつけるようなものは何もなかった。
真ん中で分けたストレートの髪は
肩よりも少し長いくらいだった。
たぶん二十代の前半くらい。
紺色のニューバランスのシューズ、
クリーム色のパンツに黒のTシャツ、
紺色のアウター、そして緑色の鞄を抱えていた。
限りなく普通に見えて、
何かが妙だった。
まず靴が汚れていた。
他には汚れひとつなく、髪も光を放っており
化粧にも乱れがなかったが、
靴はまるで沼地を歩いたように泥だらけだった。
泥はすでに乾いて白くこびりついていた。
そして私が電車に乗り込んでから
四つ先の駅で降りるまで、
彼女は同じ姿勢で眉間に皺を寄せ
ずっと右斜め上を睨んでいた。
まるで何かのモデルのように動かなかった。
電車を降りても
彼女の姿が残像のように
私の中に残った。

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