増減

冬が進むと青空が増える。
そして寒い日が増える。
色々なことが増えてゆくことに
私たちは敏感に反応するけれど、
どんどん減ってゆくことに対しては
無頓着なものである。
多くのことの総量は同じで
一方が増えれば一方が減る
そんなふうになっているのだと思うけれど。

往年のアーティストの
コンサートに行ってみると
彼女は膨大な曲の中から
色とりどりの作品を選び出して披露する。
ひとつひとつが
宝石のようにきらめいていて
心を動かすものだけれど
私は何だか醒めた感じで聴いてしまう。
カタログ的に思えたのだ。
並んだものが同じ方向を向いていない。
つまり物語が進行しない。
多様なオムニバスと言えばいいのか
意志を失っている。
そんな気がした。
人生のキャリアが進んで
持ち物が多くなってくると
そうして一方方向に進むための
力が損なわれるのかもしれない。
そもそも私はベストアルバムというものが
好きではなかった。
それは熱を持って進む方向が
損なわれているからだろうと思う。
どんなにたくさん持っていようとも、
ほんの少しだけ身につけて
外の世界と向き合う方がよいだろうと
私は思った。

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