おもちゃ

あまりおもちゃを持たない子供だった
と記憶している。
次男だったし、田舎すぎておもちゃ屋と
いうものがほとんどなかった。
隣町に行けばあったが、
父親は私が5歳の時に
トヨタのパブリカを買うまで
車を持たなかったので、
私は親と街に出かけるということもなかった。
それでも兄は不思議と
おもちゃをたくさん持っていた。
父か祖父か誰が買い与えたのか
分からなかったけれど。
私にとって、兄のものは兄のもので
私のものではなかった。
しかし、親は兄のものを共用すればよいと
思っていたようだ。
私は兄のものに触れたくはなかった。
その必要もなかった。
どんな木片も自動車だと思うことができたし、
爪切りが飛行機であると思うこともできた。
庭には美しい花が咲き
裏山には樹木がそびえていて
外の世界は不思議なことで満たされていた。
魅力的なものがたくさんあった。
私はそれで十分だった。
ぼんやりした子供だと言われていたし、
自分でもそう思っていたが
世界の不思議さに驚き
ただ目を見開いて静止するしかなかったのだ。
この頃、突然そんなことを思い出した。
たぶん
この世界の片隅に、という映画を
観たからだと思う。

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