動機

私はもっと、退屈した方がよかった。
「本が無いと退屈で死にそうになる」と作家は言った。
それは絶望的な退屈なのだと言った。
なるほど退屈だから本を読むのか、と私は思った。
それはとても素敵なことだ。
退屈があるかぎり本が読めるということだ。
私には退屈が無い。
私には無限大へのバイパススイッチがあって、
それが押し込まれると
ぼんやりと風景を見ているだけで
長い時間を消費することができる。
退屈というものが消滅する。
あの頃、なぜ読書に夢中になれたのか
考えてみれば、それは「逃避」だった。
生きている現実の世界から
逃避する場所が必要だった。
ある意味で私のモチベーションを維持していたのは
逃避だったのだ。
今現在は逃げる必要があまりない(ように感じている)。
つまり、どうしても本を読まなければならないという
必然性が欠如している。
何かをとことんするには、動機を用意する必要が
あるのだと思う。

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