トレヴィーゾ

十日間ほどイタリアに行っていた。
トレヴィーゾという町は北部にあって、
観光客の少ない、静かな町。
日本で売っているガイドマップには
ほとんど載っておらず、
情報は見知らぬ誰かのブログのみだった。
メストレから、どこ行きの電車に乗り換えれば
いいのかよく分からず焦った。
ウーディネ行きに乗り換えればよいらしい
と分かったのは、メストレに着く直前だった。
海外でもいつもそうやって
行き当たりばったりなのは
ツアー旅行に参加しないせいだけれど、
そもそも旅行というのは
そういうものではないかと思っている。
「いいなぁそういう旅をしてみたいよ」
と、知り合いは言う。
「すればいいじゃないですか」
「いや、カミさんと一緒だとまるでツアコンみたいに
 うまくスケジュールしとかないと叱られてさ、
 なんだかんだで喧嘩になっちゃって台無しだから、
 もう旅行ってツアーしかありえないんだよな」
「そういうものなんですか」
「そういうものよ」
ふたり、で旅をした時はどうだっただろう
考えてみたけれど、
記憶は、もう思い出せない距離に置かれていた。
トレヴィーゾは周りを濠で囲まれた町。
綺麗な水が静かに流れていて、
緑が美しかった。
私はとちの木の並木道を歩いた。
ポプラの木から大量の綿毛が飛んで、
雪が舞っているようだった。
春と水の光を
私の中に取り込んだ。

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