博士

春の嵐になるでしょう
予報士はそんなことを言っている。
私は吹き飛ばされるものはなくて
私自身が空を舞うものであるから
怖れはないのだけれど。
人の幸福とは
いかに繋がるかということです
と、博士は画面の中で言った。
でも先生、私はそんなこと
ずいぶん前から知っていましたよ
私は画面のこちら側で呟いてみるのだけれど、
彼には届かず
また新しい発見だと繰り返す。
この人もたぶん、あちら側の人だろう
そう私は思っている。
古いビニール盤に記録された
古い音楽を再生して
私は丁寧に珈琲を入れている。
孤独はいけません、孤独は寿命を縮めます
長寿の人は孤独ではない人のことです
博士は相変わらず叫んでいた。
そんなこと知っていますよ
問題はそこではないんですよ
私は私で叫んでみるけれど、
どこにも届かず金曜日は暮れていった。

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