九月の雨についてうたう歌を
いくつか知っている。
境目はいつも穏やかではすまず、
冷たさと熱さの駆け引きを繰り返す。
どちらが負けるか
分かっている戦いだけれど、
私には落ちてくる雨を
傘でよけることしかできない。
何もできないのが
自然というものだろう。
せめて想い出を
いくつか作ることができたなら
それでいいのだが。

深夜のタクシーに乗り込むと
強く香水が匂った。
走り出してから、
窓が薄く開けられているのが分かった。
柔らかく風は入ってきたが、
香水の匂いはなかなか消えなかった。
私は香水の匂いが
それほど嫌いではないので、
別に構わなかったけれど、
遠い記憶が少し反応しているのが分かった。

考えてみると、この年は
あと三ヶ月と少ししかないのだった。
季節が過ぎてゆくのは分かるけれど、
私もまた消費されているのである。
抗っているわけではないけれど、
関係の糸が細く消えてゆく度に
あやふやになってゆく形を
どのように繋ぎ止めるべきなのか
そんな簡単なことも分からない。

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