帰り道、霧雨が降っていた。
彼岸花は闇に隠れている。
水の粒子の間に、微かに金木犀の香りがまざっていて、
僕はそれをまとめて吸い込んだ。
夜の匂いがした。
科学や技術が発達すると、人々は形の無いものを信じたり、
形の無いものに感謝したりしなくなる。
全ての物が理解出来る形で存在している、と思うようになる。
だから祭りはすでにダンスショーのような、単なるイベントと化していて
せいぜい季節を感じるための、風物詩というやつにすぎなくなっている。
立ち並ぶ夜店は色とりどりに賑わっていて、誰よりも子供が楽しそうに
買い物をし、綿菓子や、焼きそばを頬張っていたりする。
祭りとは誰に対して何をするものなのか、そんなことは考えるだけ
野暮な事なのだろう。なにせ、仏教徒なのに教会で結婚式を挙げたり、
メリークリスマスと言い合ってクリスマスを祝ったりする我々なのであるから。
もしかしたら、そういうこともすでに、超越しているのかもしれないが。
そういえば僕は、祭りというものに誰かと行った事がない。
親に連れられて行った事も記憶にないし、友達とも恋人とも行った事がない。
小学生の時に断れなくて子供御輿を担がされた事があったが、
すごく肩が痛くて悲しい気持ちになった。
終わった後、貰ったジュースを飲みながら、もう二度と御輿は担がないと誓った。
その御輿が誰のためのものでもないということに、気が付いたから。
まきさんが、祭りでモツサンド屋をやるよ、と言ったので、
ものすごく久しぶりに、祭りをやっているところに行った。
まきさんは、神社の中ではなく、向かいの床屋さんの駐車場に
テーブルを置いて、小さく店を出していた。
バゲットに挟まれた煮込んだモツは美味しかった。
ビールとそれからワインを少し飲んで、そして帰った。
祭り囃子が遠くなった。