神無月

南からの風でした。
ベランダからそれは入り込んできて
レースのカーテンを持ち上げていました。
日曜日というものの価値は
たぶんこのようなことなのだろうと
私は思いました。
それは揮発性の液体のように
とてもはかないものなのでしょう。
私もあなたも
ほんの近い将来
損なわれているのです。
見えなくなっている。
舞い上がっている。
霧散してゆく。
そういう筋書きの上に生きています。
深夜のスーパーには
素焼きのアーモンドのケースが
沢山積み上げられていました。
飲んでいるとついそのようなものを
籠に入れて
ふふん、という気持ちになったりしますが、
そういう時に
味噌を買うのをすっかり忘れます。
無用な物に囲まれている
ということに
気付いていないわけではないのです。
しかし、どんなことも損なわれつつある
ということ知ってしまうと、
途端に何か重要なことを
まるで重要ではないことのように
取り扱ってみたくなったりするのです。

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