黙っていても
黙っていなくても
灼熱の東京は容赦がない。
太陽のせいではない。
彼はすでに秋を見据えている。
風のせいだ。
南方からそれは押し寄せてくる。
もう興味など失ってしまったに違いない。
そういうことは
すぐに分かる力を
備えているのだから。
全てのアンテナは
波を発信するものの方向を向いている。
なぜなら受け取ることが
目的の骨だからだ。
骨で捕まえるものが波である。
丸山くんは
胸が痛いので医者に行ってくる
と言って、午後から仕事に出てきた。
「心電図はとったの?」
「とったんですが何でもないってことで」
「何でもない?」
「えぇ何でもないのでとりあえず湿布を出しとくって」
「湿布を胸に貼ってるの?」
「そうなんですよ」
「そりゃ医者を変えた方がいいね」
私はそう言ったが、
丸山くんにそのつもりはないようだった。
昔母が、足が上がりにくくなった時、
主治医は神経痛ですね、といって湿布を処方したのだった。
後になって小さな脳梗塞だったことが分かった。
あれから私は
あらゆる事を真に受けなくなった。
そんなことを思い出していた。

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