花を一輪

花を一輪買って来て
洗面所に飾ることが
どれほど
こころをやわらかくするか
知っている。
毎朝、毎夕
その小さな一輪挿しの瓶の
水を冷たいものに入れ替えて
安らかぎというものを
分かち合うのである。
喜びを具象化する行いは
すなわちこころの空間を示している。
しかし、一週間もすると
花は
次第に所在なげな顔をして
私を見るのである。
看取るのではなくて
命を繋いでゆくことの方が
大切なのではないですか
そう彼女は言うのだ。
しかし、新しい花を
街の喧騒から傷つけないようにして
家まで持ち帰る困難を
私は憂えているのである。
そして益々顔色は
悪くなってゆくのだ。
何かそういう勢いのような力が
私の中に飛び込むのを待っているのだ。
雨の音を聴いている。

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