ネロリ

ネロリという果物があるのだと思っていたが、
インターネットの向こう側からやってくる情報には
ネロリというのは、だいだいから取り出した精油である
と書かれていた。
ずっと昔、ネロリを書き続ける画家の映画があった
と記憶していたから、てっきりあれはネロリという
植物なのだろうと思っていた。
私はその映画を銀座の小さな映画館で観た。
その頃つきあっていた彼女と観たのだが、
終わったあと彼女は「これ、面白いの?」と言った。
その事だけを覚えている。
私は「面白い」というのがどういうことだか
よく分からないのだけれど、「興味深い」という言葉に
言い換えても構わないのならば、面白かった。
彼女は「何を言いたいのかわかんないんだけど」とも言った。
何を言いたいのか理解したところで、
いったいそれが何になるのだろうと私は思う。
映画監督と友達で酒でも飲むのなら
それでもいいけれど、何の関係もないのだ。
それはただの風景である。
良い景色を見たと思えればただそれでよかった。
知らない街を歩くのと同じように
それはひとつの経験なのだと思う。
その彼女とはずいぶん経ってから別れた。
それさえも、もう昔の話しである。

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