果てしなく短くそして長いもの

焼却炉の煙は南にたなびいている。
雲が広がってしまって、
もう月はなかったけれど、
街の灯りは
それをぼんやりと見せる。
点滅する赤いライトが
まるで鼓動のようだと思う。
どこまでも冷たい季節、
私には私の温度があるということを
理解する。
意志を持つことはとても
素晴らしいことだけれど、
その歌はカバーソングだということを
もちろん知っているよね
と思う。
この頃、曲のタイトルを覚えなくなった。
誰の電話番号も覚えてはいない。
二次記憶装置というのは
紐付けさえも見えなくする。
仮想現実が一般的な世の中になると、
人を見ただけで、
頭の上に名前が出るように
なるだろうか。
正しいと思われていることは
いつだって少し狂気を含んでいて、
現実の世界に取り出すと
どうも違うような気がする。
それは香水の原液のようなもので、
九割以上の水で薄めなければ
決して良い香りに感じられないのだ。
八〇年代のラブソングでも聴いて眠ろう。

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