イントゥザサイレンス

背面に座っている新人の丸山くんは元気がよい。
違う言い方で言うと、ちょっとうるさい。
ラウドである。
「えーっとそれはあれですか、こうなんていうか
 AでなきゃBっていうことなんですか、でも
 Bだとするとちょっと違うような気がするんですが」
「何が違うの?」
「いや、なんていうか、Bそのもののっていうより
 相対的に考えてみると、その位置づけというか
 なんというか、あ、値段的なこともあってその…」
というように、会話のほとんどが
発声する必要のないことで占められており、
それをとても大きな声で話す。
対応している先輩社員もわりと困り顔だが、
久々の新人ということで、甘い顔で聞いている。
そういう無意味な会話、違うところでやってくれないかな
などと言えるわけもなく、私は
ロフトの旅行用品売り場で耳栓を見ている。
耳栓というのは旅行用品らしい。
色々な種類の耳栓があるのだが、
結局は二種類に分けられるようだ。
今までもあった黄色いスポンジみたいなやつと、
カナル型のイヤホンみやいなやつ。
イヤホンみたいなのは、気圧を調整する機能があり
飛行機の上昇、下降によって耳がきーんとなるのを
おさえる、という用途が主らしい。
普通のやつでいいや、と思って
イヤーウィスパーを手に取ったけれど、
なぜかSサイズしかなく、レギュラーサイズが
見あたらなかった。
私はしばらく掌でSサイズのパッケージを見ていた。
フロアには旅行用のバッグを選ぶ
楽しげなカップルの声が響いていた。
私はそれを棚にそっと戻して
売り場を離れた。

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