鏡を見たら、右の白目に赤い点があった。
あれ、これ左目で起きたこと同じだったら
とってもまずいと思って眼科に行った。
「ま、あざみたいなものですね。
二週間もしたら消えるでしょう」
丸顔の女医はのんびりとした感じでそう言った。
「左目とは違うんですね?」
「えぇ、明らかに違いますね」
そういうやりとりは五分もなかったけれど、
会計は千五百円であった。
眼科というのは儲かる商売らしい。
治りが早くなる、という目薬を処方してもらった。
薬局で待っていると、
前に眼鏡をかけた三十歳くらいの女性がいて、
薬剤師と何かもめていた。
「あのぅ、これとおんなじ薬、前回も貰ったんですけど、
全然効果ないってゆーか、痛みが全然ひかないんですよ。
効き目無いのにまたこれって感じなんですけど」
女は左手を腰に当て、右足をドラムのペダルを
踏むみたいにぱたぱたさせていた。
「はぁ、目についた傷というものを直接治す薬というのは
無いんですよね。これはその保護するための点眼でして。
ですから、このお薬で様子を見ていただくしか」
「でもぅ、いつまでたってもコンタクト入れられない
じゃないですか。痛くて。なのにおんなじ薬ってねぇ」
「お気持ちは分かるんですが、こちらとしましては
先生の処方されたお薬をお出しするしかありませんし、
特に問題のある処方だとは思えないのでして」
「だって、ずーっと痛いままなんですよ」
「はぁ、まぁあの目というのは、ほんの小さな傷でも敏感に
痛みを感じる部分ですので。このお薬はその乾きにくく
するといいますか、そういう効果が」
「あぁそうですよね、あなたに言ってもしょうがないですよね。
いいです、じゃそれで」
女は薬をもぎ取るようにして、帰って行った。
そう、目というのは、一旦問題が発生すると、そんなに早くは
治らない器官なのだ。
もしくは、治らないかもしれない器官なのだ。
何かを治すって、とても困難で根気のいることだと思う。