さつき

気付くと五月になっていた
というのは嘘で、五月を迎えるための
儀式のように会議やら手続きやら
そういうのを散々やって、
もうだいぶん草臥れたころに
やっと五月がやってきたのである。
いつもの事だけれど、五月を迎える
のはそれなりに大変なのだ。
世の中のエネルギー問題について
考える前に、自分の気力の問題について
何とかすべきだろう。

曲をひととおり弾き終わると、
「確かに、連休前はお急がしかったのでしょうね
 という感じの曲になっていますね」
と、ピアノの師匠は言った。
言葉には多少の嫌味エッセンスが
振り掛けられていたが、何故だか
嫌な気分にはならなかった。
「えぇまぁそんなところです。すみません」
と私は笑って言った。
信頼というのは、物事の厳しさを
受け入れるために必要なことだ。

雨が通り過ぎるとまた
季節は展開されてゆき
空の雲の形が変わってゆく。
それを見ながら私は
宇宙的な絶望について考えてみるけれど、
とってもよく分かるような
さっぱり分からないような
そんな気持ちで
そういえば、小さい頃から
現実味、というものを遠ざける訓練を
していたからな、と思う。

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