かたち

「シュートが上手い奴がいるんですよ。
 俺がこう絶妙なタイミングでパスを出すじゃないですか、
 そしたら、そいつがすごくいいところに
 すぱっとシュートを打って、見事に決まる
 そういう事がもう何て言うか、たまらないですね」
 サッカーのどのへんがいいの
 と、訊いたら彼は、ぐいと杯を空けてそう言った。
「それって、愛だね、恋愛みたいなもの」
 そう思った。妙に納得して、自分も杯を空けた。
 ひとりではなくて、他人との関係で成り立つもの
 技術だけではなくて、信頼や、気遣い、
 同じ方向を向いて、共通の目的を追うこと。
 そこには、恋愛が持つ美しさが含まれている。
 どうりで、夢中になるわけだ。
 私はそれが何だか羨ましかった。
 ひとり、というのは
 そういうことを羨むことであり、
 またそういう機会を作ろうとしないことなのだ。
「そうか、サッカーって愛なんだね」
 私は彼の杯と自分の杯に酒をつぐと、
 もう一本、熱燗を頼んだ。

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