猫が集っている。
たとえばそのような
些細なことがひとつの喜びである。
季節が進むということの
意味がそこにあるだろう。
涼しくなったので、帰り道は少し歩くことにした。
風にまぎれて歩くのもまた、夜に入り込んでゆくための
儀式のようでもあって、なかなかよいと思う。
表通りではなくて、住宅街の細い道を南に下ると
空にひとつの星と半分の月が昇っていて、
それだけで良かったと思える。
そこに人は登場せず、ただ闇があることが重要なのだ。
こちらの道の方がさらに人通りが少ない
と思われる脇道に出る。
しばらく行くと少し広い駐車場があった。
暗がりのあちらこちらに、丸いものがあって、
よく見るとそれはみんな猫だった。
数えてみると六匹くらいいた。
茶色いのも、黒いのも、白いのも。
あれ、こんな所で会議かな。
私はしばらく猫を見て、それからその場所を通り過ぎた。
人ではない猫の世界を
よいものとして転写する。
翌日から、その道を毎日通った
数は違うけれど、いつもそこに猫はいて
ただ座ったり、遠くを見たりしていた。
自分も必ず猫に会えるその道を通ることが
なんだか楽しみになっていた。
猫にはなんとなく好意を感じる。
それが何故かわからないけれど。
その日はいつもより遅い時間に会社を出た。
そしていつもの道。
やはり猫はいた。
今日はいつもよりも数が多いなと思った。
目で追って数を数えていたら、
駐車場の奥の暗がりに人がいた。
あっ、と思った。
顔はよく見えなかった。
帽子を被って、腰を曲げている姿が
老婆のようにも見えたが、もしかしたら
もっと若かったかもしれない。
その人は、半分闇に溶けていた。
四角い容器に何かをいれて、
駐車場のあちこちに置いてまわっていた。
餌だった。猫の餌。
猫たちはその容器に顔を突っ込んで
餌をむさぼり食っていた。
理由というのは
知らない方がいいこともある。
しかし、たいがい物事というのは
シンプルにできている。
私は足早にそこを通り過ぎた。
月はあいかわらず空にあって
少し膨らみ始めていた。