シンプルな好奇心

美しい、というのは
何も無いことだと思うようになったのは
いつからだっただろうか。
もしも、遺伝子に記憶というものが
忍び込んでいるのならば
ずっと前の世のことかもしれない。
しかし、何も無くすことなどできないから
常にそこに違和感を感じながら生きることになる。
そして、なるべくならばシンプルな
道具を手にしようと思ったりする。

弁当箱を買った。
タイ製の、ステンレスでできたシンプルなもの。
パッキングもなく、単なる器。
弁当を作ろう、と思うのではなくて
単にそれを所有したかったのだ。
しかし、そういったものは不思議なことに
欲求、というものを発生させるようだ。
つまり、おかずや、ご飯をこれに詰めてみたい
と思わせる。
それで僕は作るつもりもない弁当を休日なのに作り、
そして、行くはずもない少し離れた公園に、
灼熱の中わざわざ車で行って
ベンチで弁当を食べたりするのである。
なんだこれは。

そう思った時、頭上にいきなり
小型機が轟音と共に現れて、
そして木々の向こう側に
まるで落下するように消えるのである。
そうだ、ここは小さな飛行場に
隣接する公園だった。

弁当を食べてしまうと、公園に来た理由は
すでに終わっていて、蝉の鳴き声が流れ込んでくる。
子供達は、みんな虫取り編みを振り回しながら
野を駆けていた。
あの虫取り編みで、何かを捕まえることが
できるのだろうか。
それとも、何かを捕まえようとすることを
楽しむのだろうか。
どちらにしても僕は、虫取り編みを持っておらず、
捕まえることも、楽しむこともない。
ただ捕まえようとする子供達を遠くから眺めて、
ペットボトルのお茶を飲んでいた。

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