風が吹いているのは
自分の外側なのか
それとも内側なのか
もう分からなかった。
そして霧のような雨が降る。
梅雨の中にいる。
しとしとと降る雨はよい雨だ。
染み込むのは水だけではない。
今日は降らないでしょうと
ゆみきさんはまた言った。
未来のことは嘘を含んでいる。
そんなこと知っている。
僕はトロイメライを弾く。
そしてそれは眠るためなのだ。
むらさき橋の上は暮れていた。
犬が歩いていた。
いや、よく見るとそれは犬ではなかった。
しっぽは丸く、目の回りが黒かった。
たぬきだ。
たぬきの名前を僕は知らない。
だから「おい」と呼んだ。
そうしたら彼は
一瞬立ち止まって、それから
茂みの中に走って消えた。
どうして僕の目の前から
消えなければならないのか。
僕の存在そのものが
君が闇に消える理由なのか。
それがとても理不尽なことに思えるのは
たぶん執着というもので、
捨て去るべきものだろう。
愛とは何だろう
と昔、書いたことがあって、
そうしたら彼は
お前バカじゃないの
といった。
僕は何がバカなのか訊き忘れた。
彼はもう、どこに行ったのか分からない。
しかし、それから僕は人に答えを求めるのを
なるべくやめた。
いや、本当はずっと昔から
知っていたのだ。
あなたの中に、僕の答えなどないことを。
それはとても
当たり前のことだけど。