自由

「思い切って彼女に告白したら、
 それ以来、遠ざけられるようになってしまって、
 僕、どうしたらいいんでしょう」
 酒井くんはホームの階段を下りながらそう言った。
 どうしたらいいか。
 残念ながら、その件について答えは、ゼロ件、です。
 コンピューターの合成音声でそう答えたかった。
 愛とは何であるか
 という問いと同じように、それに答えはない。
 ただ、君の持っていた磁石と
 彼女の持っていた磁石が
 たまたま同じ極性を持っていたのだ。
 ただそれだけのことだから。
 そう言おうとした時に、下り電車がやって来た。
 僕は下り、君は上りだった。
 ドアは閉まり、僕は右手でグッド形を作った。
 何もグッドではないが。
 そして、電車は動いて、君は流れて見えなくなった。
 自由とはそのようなものだ。

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