春風

季節が常に動いているように
私の細胞も常に入れ替わっている。
しかし、ずっと同じものであったかのように
振る舞うのは妙なことであるなと思う。
変わらないことなどありはしないが、
変わらないように見せようとする力が
何事にも備わっていて
その力の強さによって物は形を維持する。

気付いたら四月は終わろうとしている。
終わりがなければ
始まりはないだろう。
そんなこと、知っているつもりで
実は何も知りはしない。
そうやって、ベランダで風にあたっていると
春というものの音をやっと聴くことができる。

オレンジ色の重機が
掻き回していた物件は
きれいに更地になって、
剥き出しの土色が広がっている。
敷地の真ん中を川が横切っているという
変わった土地だったということがわかった。
もうそこは静かで
また新たに建物が建てられるのを待っている。
せめて草原になるまで
待っていてくれるだろうか。
いや、誰も待たないだろう。
きっとすぐにまた、掘り返して
鉄の杭が打ち込まれるだろう。
スペースとはそういうものだと
私は知っている。

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