希望

春は近いようだ。
風がそう言っている。
いや、すでに春なのか。
春とは温度のことなのか
それとも、温度によって
変化してゆく活動のことなのか
そんなことを考えていたら
またしてもとてつもなく眠くなって、
すっかり昼寝をしてしまった。
何かすごく変わった夢を見たけれど、
問題なのはその夢の内容ではなくて
夢から覚めた後の浮遊感だろう。
なかなか着地できないのは
他の人間に会っていないからだ。
ひとり、というのは
こうして境界をあやふやにしてゆく。

「無くなった」ということは表現できない。
無いのだから。
かつて、そこにあったということは
単に脳内の科学的状態でしかない。
ピンク色の壁のセメント工場は
すでにすっかり解体されて
処理を待つ瓦礫の山だ。
失われたものは遠い。
かつて、自分の形を表すための
ひとつの点であったはずのもの。
変えることよりも、むしろ
変わらないでいようとすることの方が
難しい。

失われたこと、失うことに対して
絶望的な気持ちではなくて
もう、自分の中にしかないという
素敵な懐かしさで満たしたいと
思っている。

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