西行

細い月が西の低い空にあった。
二つの星の少し上で
夜の瞼のようだった。
でも、なんだか不思議な気持ち。
西の空に細い月があるということが。
あら、小学校で習わなかったの?
くまちゃんはそう言ったけれど、
そういう意味ではなくて、
僕が夜の早い時間
西の空、街の上空に月を見たことが
記憶の中にあまり無いからだ。
ふつうの夜、僕は西から東に向かって
帰ってくる。
何かを見上げる時、
それはたいがい、進行方向にあるものだろう。
つまるところ、
今日は、東から西に歩いていたということ。
きっと僕が都心に勤めていたなら
その月はなんということはない
いつもの月だっただろう。
人はどこに移動するのかで
ずいぶんと気分が違うものだ。

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