死に至る病

美味しく珈琲をいれられるようになりたいし
美しい文章が書けるようになりたいし
上手にピアノが弾けるようになりたいし
ちゃんと仕事をして、それからよいものを食べて
にこやかに誰かと静かに話をして
ゆっくりお風呂であたたまって
そして、ちゃんと眠って
新しい朝を喜びとして迎えられるように
なりたいと思うけれど
どれも欠けていて、しかし静けさだけがある。
加齢というのは病のようなものだ。
ゆっくり進行して、そして死に至る。

駅のホームの下にあるカフェに入って
アップルアールグレイティというのを頼んだ。
甘い、いや酸っぱい、林檎の強い香り
何だか複雑な味だった。
舌の上に砂糖の甘みは残らなかった。
快速電車が通り過ぎる度に
ゴトゴトと音がして、店内のBGMが濁った。

片づけの基本は
物をホームポジションに戻すことだそうだ。
僕のホームポジションはどこだろう。
考えてみると、どこも帰る場所ではないような気がする。
たぶん、ホームポジションに戻す前に
ホームポジションを決めるという作業が
必要なのだろう。

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