長月

わたしの八月は終わって九月である。
台風十号はいつまでものろのろと
そこらを彷徨っていて、
はっきりと形が無くなってしまっても
まだ空の景色を変えてしまうような
力を持っている。
あちこちで空が落ちてきて
困っている人がたくさんいるようだ。
わたしは炭酸水を飲みながら
灼熱の日々をやり過ごしてきた。
「水をたくさん飲みなさい」と
医者は言うのだが、
わたしが水から陸に上がったのは
三億八千五百万年前だから
今はそれほど水を必要としてはいないのです
そんな事を言うわけにもいかず
どうしたものかと思っていたが、
炭酸水ならば飲めるということに気づいた。
それで炭酸水メーカーを買って、
水を炭酸水にしてごくごくと飲んでいる。
もともと炭酸は苦手で、
イタリアに旅行に行っても、水を頼むと
普通に炭酸水が出てくるので
「アクア!」と言わなければならなかった。
それがどうしたことか、この頃は
炭酸水が水よりも飲めるようになったようだ。
しかし炭酸自体に強くなったわけではなく、
ビールなんかはそんなに飲めないのだが、
それはまた別の話か。
とにかくソーダの泡のように夏が終わると
そういう話である。

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