言葉の世界

同じ単語が同じものを
指しているかと、そうでもない。
それは方向を示しているだけだ。
人によって、その言葉を発した時に
想っていることが違うから
自分の想いを単語の連なりによって
表したとしても、それが他者に
自分の想っている通りに伝わるかというと
そんなことはなくて
必ず隔たりがある。
そういう当たり前のことが
わからない人はずっと昔から
ある程度いる。
自分の父親は国語の教師であったが、
それが分かっていなかった。
「それってどういう意味?」と
私は父親の言う言葉が指している
ものについて、
検証すべく、しつこく訊いたものだが、
最初は答えるが、繰り返すたびに
口は重くなり、やがて黙った。
そして最後には「うるさい」と言った。
そう、私はうるさいのであった。
繰り返し「どういう意味?」と訊くと
誰もがこの人ウザいという顔になったり、
はてはキレたりする。
賢明な人たちは、確認をしない。
言葉を発した人の意図など関係なく、
自分の思ったように受けとて処理する。
たとえそれが相手の想っているように
伝わっていなくとも気にしないのだ。
勝手な解釈が常である。
そういう人たちを目の当たりにした時、
私は「あぁそういうものか」と思った。
人の距離感というのはそのように
ある程度遠いものなのであるということを
理解したのである。
しかし、それだと人種や価値観が
異なる人とは全く情報の伝達ができないか
誤って伝わるのではないかと思う。
自分は相手の意図を正しく受け取りたいと
思うのだが、言葉による相互伝達は
なかなか難しいものだ。

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