老人の発見

ときどき立ち飲み屋のカウンターなんかで
格言めいたことを大声で語る年寄りがいた。
歳を取るとあんなふうになるのか
嫌だなぁ、あんな年寄りにだけは
なりたくないものだと思っていた。
そして年月が過ぎて自分も歳を取る。
いつまでも若くはないのである。
歳を取ってみると、あの年寄りの気持ちが
とうとうわかってくる。
年寄りも新しいことを発見するのだ。
若い頃と同じように
そうか世の中はそうなっていたのかと
初めてわかって、驚き、納得して、
それを誰かに言いたくなる。
しかし、年寄りよ、それはあなたの歳になって
それまでの経験もあって
初めてわかった新しいことなのであるから、
若人に話しても通じることはなく、
ただの格言めいた決めつけに聞こえるのだ。
だから若人よ、そういう年寄りに会ったら、
「そうですか、わかってよかったですね」
とでも言ってあげよう。
年齢も価値観も違う人に自分がわかったことを
正しく伝えるためには相当な技術が必要で、
作家になるような訓練が必要だろう。

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