水を溜めない

貯水タンクをやめたのだそうだ。
水道管から直接各戸に給水するようにしたと
掲示板に貼ってあった。
上水の水圧では三階までしか上がらないから、
どこかで加圧して、
私の蛇口まで来ているのだろう。
給水が変わってから、湯船で
あの鉄錆の匂いを吸い込むことがなくなった。
あれは貯水タンクの中で
色々なものが溶けこんだ匂いだったのだ。
ウォータータンクを
見るのも撮るのも好きだけれど、
味わいたくはないものだと思った。
私たちの六十パーセントは水だと言う。
そういう意味では、この蛇口から
出てくるものは「わたし」である。
もしかしたら、かつて誰かだったものである。
巡っているのだ。
地球というのは私のことでもあった。
水はどこかに留まらないのが素性だ。
常に流れ、常に消費され、常に揮発し、
常に巡っている。
そもそも溜めるという行為が
間違っていたのだ。
正しい水のあり方に戻ったのだと思う。

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