闇の光

東の空には丸く大きく見える月が
西の空には遠く花火が上がっていた。
どん、どん、と低い音が
ずいぶん遅れて私に届いた。
ベランダにはぬるい風が吹いていて、
今暮れたばかりの空の端に
まだいくらかの光が残っている。
夏なんだと思った。
その実感がまだなくて、
どんな心構えもないのだけれど、
考えてみると私の生きてきた道の上で
心構えがあったことなど何もなかった。
それは勿論いつもぼんやりとして
前さえも見ていないからだということを
知ってはいる。
何もかもが手遅れになることを
とても残念に思う一方で、
それがたぶん私というもので、
そのおかげでとても困難な日常の痛みを
和らげてきたのだと思う。
私は花火が終わってしまうまえに、
ベランダから部屋に戻って
しっかりと窓を閉めた。

カテゴリー: 諸行無常 パーマリンク