暮れ

時間とは波のことであって
すなわちそれは光のことでもある。
わたしたちは波打ち際にいて
星を数えている。
バラバラに壊れたものを
もういちど拾い集めて
丁寧に繋ぎ合わせて
ほぼそっくりに戻そうとしている。
見かけは何も違わない。
しかし何かが違っている。
もう大切にしていた物とは
違うものになっている。
そのことに気づいてはいるが、
私は気づかないふりをしている。
私は思いたい。
かつてのそれと全く同じだと。
違ってしまったのは自分なのだと。
マイクロフォンは風に吹かれていて
あなたの歌は聞き取りづらい。
だから私は旅に出る支度をしている。
旅は人を変えるのさ
偉い先生が昔そう言った。
けれど私はそう思わない。
君は海原を見ていた。
カモメが飛来して低く舞っている。
彼はただ餌を探している。
世界のレイアウトの中で
何者でもないことを知って
絶望することがただ必要なことだろう。
誰もそれがいいことに値せず、
視覚の中にボタンが存在しないことを。
私は知っている。

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